少子高齢社会の進展に伴い労働力不足が深刻な社会問題となる中で業種や業態を問わず、労働力の確保が急務になっています。そのなかでも、流通・サービス業は労働力不足が著しく、オンラインショップなどECの急激な利用増などで取り巻く環境は大きく変化しています。
深刻化する人手不足に対して、シルバー人材の活用や外国人のビザの規制緩和など、対応を進めていますが人材不足の問題は解決しません。
そのため、業界や企業ではAIやIoTなど最新のテクノロジーを用いて、業務効率化の取り組みを積極的に推進しています。
先進的な企業ではデジタルを上手に活用し、EX(従業員体験)とCX(顧客体験)の向上へつなげています。
今回は小売業のデジタル活用例を学ぶ中で、人手不足にどのように立ち向かっていくのかを説明します。
小売業の省人化や効率化が必要な理由
日本の社会で進む少子高齢化は、全産業に大きな影響を与えており、2030年度には労働者数は約640万人不足すると言われ、各産業に与える影響は大きなものと言えます。
小売・流通業で労働者不足が深刻化する理由の背景には、ECの発達などライフスタイルのデジタル化挙げられます。
BtoCビジネスだけでなく、CtoCの分野でもネットオークションやフリマアプリなどが発達しており、今後も活発になると予想されます。
しかし、デジタル化による新たなビジネスチャンスの創出に対し、小売業に従事する人の数は増えていません。
2018年度の雇用動向調査結果によると、入職者数は宿泊・飲食業界が127万人と最も多く、小売・流通業界は122万人でこれに次ぐ規模となっています。
一見雇用の受け皿として機能しているように見えますが、実態としては人が入っても、離職者も同じように多く、人材が定着していません。
この要因としては以下の理由が挙げられます。
- 休暇が少ない
- 長時間労働の常態化
- 接客業によるストレス
- 賃金が低い
以上のような理由により、人手不足に陥っています。サービスレベルの維持が困難になり早急な所得改善や、労働時間の削減、そして業務効率化が急がれます。
このような状況下で解決策は「人の採用」または「効率化や省人化」の二択になります。効率化とは、今まで1時間費やしていた業務を50分でやったり、人がやっていた仕事を機械がやり人が他に時間を費やせるようになることです。
官民で推進する小売業の省人化
デジタルなどの最新技術を用いて、業務を効率化しようとする流れは、民間だけでなく、政府も積極的に推進しています。
経済産業省は、IoT・AI・RFIDなどの最新技術を用いてのスマートストア対策を推進しており、具体的には「ダイナミックプライシング」の実証実験や、「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」などを政府主導で実施してきました。
電子タグの利用推進により、レジや検品・棚卸業務の高速化、消費期限管理の効率化など、店舗側の業務効率化と負荷軽減が期待されています。
また、民間では要員教育にVR(仮想現実)を用いたり、レジレス店舗やセルフレジの導入が増えているなど、最新技術を用いての業務効率化の流れが加速しています。
小売業での省人化向けた取り組み
ITを用いた、オンラインとリアル店舗の融合例として、「Amazon go」があり、いち早くレジレスの店舗を実現し新たな顧客体験を創出しました。
アメリカウォルマートでは、VRを用いての従業員教育を実施、スキルと満足度を高めて人材の離職を防ぐと同時に競争力強化を実現しています。
日本では、NECが顔認証システムを用いての無人店舗を実証開始し、省人化に向けた取り組みを推進するとともに働き方改革にもつながっています。
凸版印刷株式会社は、ICタグを用いて、リアルタイムに在庫管理を可能とする「スマートシェルフ」を開発・提供することでバックオフィスでの業務量削減と在庫管理の適正化に貢献しています。
また、AIを利用し販売データ・イベント情報・気象情報などを分析し、需要予測を行うエンジンも存在します。
このように、最新技術を用いて小売業の省人化は実際の店舗業務からバックオフィスの業務まで多岐にわたります。
業界の課題解決を目指す流れは加速しており、技術の発展と共に更にこの流れは加速することが予想できます。
労働力不足が叫ばれる中、小売業界ではデジタルトランスフォーメーションを通じて、効率化や省人化に向けて民官一丸となって課題解決に取り組んでいます。
既存業務の見直しを図るとともに、対面接客など人が携わることで価値が高まる業務と最新技術を用いて価値が高まる業務を見定め適切な対策が必要です。
人とデジタルによる共生により、それぞれの良さを活かすと同時に、CX、EXを向上させ、業界の新たな価値創出を目指します。