リテールテック

RaaSで小売業界におけるSaaSモデルの特徴やサービス事例についてご紹介

IT業界のSaaSと呼ばれる月額制のサブスクリプションモデルで有名で、マイクロソフトのオフィス365やAdobeのソフトウエア(CreativeCloudなど)などが代表的です。
小売業界でもSaaS(Software as a Service)を小売業界に置き換えたサブスクリプションモデルに提供する企業が生まれてきました。

RaaS、「Retail as a Service(小売のサービス化)」と呼ばれ、IT企業と小売企業が提携し、これまで獲得してきた顧客データやITシステムの資産を活用し、他の小売企業やメーカーに向けたサービスの提供を行い、新収益を獲得しようとする動きが進んでいます。

このRaaSの動きについて、その考え方、具体的な取り組み事例、それを利用する場合のメリット・デメリットについて説明します。

RaaSとは?定義と特徴

RaaSとは「Retail as a Service」の略で、小売のサービス化ということです。
小売業は「SIerに自社の要件にあった新しいITの仕組みを発注開発してもらう」という発注者と受託者という従来のやり方ではなく、仕組みを持つ小売事業者がIT事業者と協業して他の小売事業者へのITサービスを提供する、小売向けのサービスなのです。

そこでは、IT事業者と小売事業者はアライアンスによるパートナーの位置づけです。
IT事業者は基盤やソフトウエアなど、従来のとおり、テクノロジーを提供します。
一方で小売事業者は自社のお客様・店舗運営に関わるノウハウや知見を提供する、役割定義がされています。

両社の強みが融合することで、同様の課題をもつ小売事業者に対してサービスの開発提供ができる、というのが考え方になります。
この提供範囲については、事業者により様々ですが、小売事業者が保有している自社のシステムを、RaaSのサービスとして提供する事例、小売事業者が必要となるインフラや役務全体をRaaSサービスとして提供する企業も登場してきています。

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RaaSの事例

RaaSの取組は米国で既に事例化されております。以下に3つの事例をご紹介します。

  • AmazonGoの仕組みをRaaS化(決済に特化したRaaS)
  • 米国KrogerのRaaS化の取組み(Krogerの成功事例をRaaS化)
  • b8ta(ベータ)日本上陸(小売に必要なシステムや役務全体をRaaS化)

 

AmazonGoの仕組み(決済に特化したRaaS)

レジなしで決済が可能な店舗として、米国で有名となったAmazonGoですが、2020年3月にAmazonGoに導入されている、レジなし決済システムの“Just Walk Out”を、小売業向けにRaaSとしてサービス販売することを発表しています
“JustWalkOut”は、無人コンビニ向けに開発された技術で、ウォークスルー決済が可能となる仕組みです。AmazonはITベンダーでもあり小売事業者でもありますので、自社がRaaSベンダーとして、他の小売事業者に利用して頂くサブスクリプションモデルです。
国内でも、ウォークスルー決済のテスト導入店舗が増えてきましたので、将来的にこのRaaSを導入する小売事業者も出てくるでしょう。

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Krogerの取組み

米国小売企業のKrogerは、アメリカの35州に約2,800のスーパーマーケットを展開しており、2019年にマイクロソフト社をパートナーとしたRaaS戦略を打ち出しました。
現在、“EDGE”と呼ばれるスマートシェルフをサービスとして展開しています。
EDGEは、Krogerが蓄積してきた顧客情報や売場にまつわるノウハウをベースに、マイクロソフト社の人工知能技術を活用した、デジタルサイネージの支援サービスです。表示価格を瞬時に変更するといったプロモーションも行えるほか、どの製品がどの棚に所属しているかを視覚的に示すことで、補充作業の効率化にも貢献します。
効果的な販促の実現に加え、業務効率化まで支援するのが、RaaS領域に参入するKrogerとマイクロソフト社の狙いのことです。Krogerは、データマーケティングに特化した組織を有しており、自社のデータとメディアを活用した販売促進サービスも提供しています。この販促の仕組み・ノウハウがRaaSサービスに生かさせているようです。

b8ta(ベータ)日本上陸(小売に必要なシステムや役務全体をRaaS化)

b8taという米国のベンチャー企業が、日本市場に上陸しています。2020年夏にはアジア初進出となる2店舗を新宿と有楽町に出店するとのこと。
b8taはRaaSのスタートアップ企業で、物理的な店舗スペースのほか、在庫管理・物流サポート・店舗を運用するためのPOSやプロダクトのデータベースなどをパッケージとして提供するサブスクリプションサービスです。
店内に設置したカメラを通じて、店内での来店者の行動を収集・分析する顧客体験分析レポートサービスなども提供しています。

アメリカではD2Cブランドが、顧客の意見を確認する場として、b8taのリアル店舗を利用することが増えています。
D2CブランドはSNS上での販売促進が一般的ですが、商品を実際に手にして体験することができる場として、リアル店舗の有効性を求めていますが、DC2ブランドが自社でリアル店舗を作るには投資が大きすぎます。その様なニーズに対して、リアル店舗の仕組み全体をサブスクリプションモデルとして、サービス提供しているのです。

 

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RaaSのメリット・デメリット

3つの事例でご紹介の通り、RaaSのメリットは“人の褌で相撲を取る ”ということわざに近いようです。成功企業が作り上げた、仕組みを安く利用することで、自社で同様の仕組みを作り上げる必要がありません。
そのメリットは3点あり、

  • 投資が最小化される
  • リスクが小さい
  • 必要な時に始めて、不要な時にやめられる

一方で、本格的にRaaSを利用していく上では、競合関係にある小売事業者のRaaSを利用することによる、ノウハウや情報の流出というセキュリティの観点で不安が残る点です。

 

RaaS(Retail as a Service)についてご紹介しました。
自社で保有しているITを中心とした仕組みやノウハウを他の小売事業者にサブスクリプションモデルとしてサービス提供するものです。米国のAmazonGoやKrogerの様に確立された仕組みをサービス化する事例、b8taの様に、リアル店舗の仕組み全体をサービス化する事例が出てきました
RaaSモデルの有効性が注目され、そのサービスを活用したリアル店舗の運用が増えることでしょう。

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