ECとSNSを活用して成長する「D2C」(Direct to Consumer)ブランドが国内でも次々と登場しています。国内のD2Cブランドビジネスの現状や、企業のD2C事業についてみていきたいと思います。
D2Cブランドビジネスとは
D2Cブランドのビジネスモデルを一般的な定義で説明すると「自社で企画・開発・生産した製品を、自社で制作したECサイトを通じて販売する」となりますが、D2Cブランドの最大の特徴は「ブランドのファン育成を重視する」という点です。ファンにSNSで拡散してもらって、さらにファンの輪を広げていくこともビジネスモデルの中に組み込まれています。ベンチャー発祥のブランドが多く、最初に熱狂的なファンがついて、広まって売れていくというプロセスをたどっていくのが特徴です。
マスブランドと比べると、成り立ちも生活者からの見え方も全く違います。マスブランドが目指すのは、そのカテゴリーのシェア1位になってカテゴリーの代名詞になることです。それに対してD2Cブランドは、一人ひとりのユーザーの「マイブランド」になることを目指します。それを実現するために、ブランドのビジョンや世界観を強く打ち出すのが特徴です。
ビジネスの構造から見ると、一般的なマスブランドのマーケティング費用は固定費になります。店舗や流通の費用、広告販促費、人件費などです。固定費は売上の多寡にかかわらず発生するコストなので、ビジネスの規模が拡大し、損益分岐点を超えれば一気に利益が上がります。だからビジネス目標は市場シェアの獲得となります。一方、D2Cを含むECは変動費ビジネスです。重視されるのは顧客一人当たりの獲得コスト。獲得効率が上がれば上がるほど、つまり、より少ないコストで顧客を獲得できればできるほど利益が出ます。規模を拡大して利益を上げる従来のビジネスとは構造が異なるわけです。
ECとD2Cとの違い
ECの課題は、参入障壁が非常に低いので、競合が多いことです。競合が増えればそれだけ新規顧客の獲得コストは上がります。その環境で生き残るにはどうすればいいか。顧客の「リピート」を増やすことです。一度買った人にブランドのファンになってもらい、その後も繰り返し買ってもらうことができれば、顧客獲得に多額のコストをかける必要はなくなり、獲得効率が上がります。それが、D2Cが目指すビジネスモデルです。狭く深いマーケティングと表現してもいいかもしれません。限定された市場に向けて尖った商品を出していくのがD2Cの一つの定石です。そしてD2Cがユーザーに訴えかけるのはスペックの高さではなく、エモーショナルな価値。ストーリー、デザイン、体験──。そういった要素でユーザーの心を捉えてファンを作っていくブランディングが非常に特徴的です。
国内D2C市場の状況
「D2C市場」という明確な定義はまだありません。規模を正確に把握するのは難しいのですが、国内で成功しているD2Cブランドは現時点で30から50くらいの値ではないでしょうか。また直近では新型コロナウイルスの影響で、新たな販売方法を模索する必要に迫られた企業が、D2Cビジネスに本格的に取り組もうとするケースも増えてきています。ただ、D2Cブランドはそんなに簡単にできるものではありません。単なる販売方法の変更ではなくて、既存の流通で簡単に買えてしまうものはECではなかなか売れません。
また、D2Cはある程度ニッチなターゲットに尖った商品を販売することになるため、売上規模はクライアントの既存事業からすれば、かなり小さくなります。D2Cの立ち上げをクライアントがやる場合は、まずはD2Cとしてしっかりファンを作り、そのあとでどのようにして売上規模を自社として期待する水準に高めるかを最初から設計しておく必要があります。商品カテゴリを広げる・既存流通に乗せていく等、方法は様々です。
ユーザー側の変化をみると、自分がファンになった商品を「D2C」という言葉で認識している人は少ないと思いますが、多少価格が高くても、こだわりをもったD2Cブランドを「マイブランド」として愛好する生活者は増えています。ファッションなどで自分を演出して周囲からの差別化を図るという生活者行動は以前からあったわけですがInstagramを始めとするSNSの普及で、自己演出の欲求はより高まっています。その自己演出欲と非常に相性がいいのがD2Cブランドです。今後、D2Cブランドの愛好者は間違いなく増えていくことでしょう。
D2Cブランドビジネスの実態
D2Cブランドビジネスは、ブランド設計、ビジネス設計、商品設計、システム構築を含めたバリューチェーンの整備、マーケティング、店舗展開など、広範な領域にまたがります。この1年ほど、メーカーを中心とした企業が、ユーザーとの新しい接点を作れないかという問題を抱えております。その解決策の一つがD2Cです。
生活者の感情を捉えてファンを作るD2Cというモデルは、とりわけ生活者発想が求められるビジネスです。企業のニーズだけではなく、ユーザーが使いたいと思うか?勧めたくなるか?という生活者側の視点を常に取り込みながらブランドを設計していくことが求められます。D2Cビジネスに必要な全プロセスを一気通貫で提供できる体制をつくっている会社は多くはありません。生産管理やフルフィルメント(ECでの注文から配送までの業務)のような、従来の広告会社では対応できていなかった新しい領域もあります。また、D2Cの成功を阻む「ブランドビジネスとECビジネスを同時に実現する」という高いハードルもあります。
まとめ
現在は、「D2Cブランド」や「D2C企業」という“実体”があるように思われていますが、見方によっては、D2Cとはブランドが成長していく過程の、一時的な “状態”と考えることもできます。ブランドが少数のファンに熱狂的に支持される段階がまずあって、そこからファンが増え、市場が拡大し、マスブランドへと成長していく。今後そのような成長プロセスをたどるD2Cブランドも増えていくでしょう。あらゆるブランドがD2C的になっていくことになるでしょう。そして、「D2Cの出口」を模索する動きも活発になってくるでしょう。ブランドを確立した後の成長戦略として、ロットを増やすのか、既存の流通インフラを活用するのか、広告展開で認知を高めていくのか。その出口戦略づくりも検討していく必要がございます。
クライアントがビジネス成果を出せるモデルをいかにつくれるか。それがこれからの勝負になりそうです。