D2C

D2Cビジネスにおいて実店舗を出す意味と実店舗が担う役割

D2Cビジネスでは商品は主にECで販売されますが、ブランドの世界観を伝えるために顧客とのフィジカルな接点が重視されるケースが少なくありません。その接点は多くの場合、実店舗です。店舗を運営する際は、物件探しから始まり、内装、外装、店内の動線設計、スタッフ管理、売り上げ管理などさまざまな作業やオペレーションが必要になりますす。今回は、D2Cおいての実店舗の重要性について考察していきます。

D2Cビジネスにおいて実店舗を出す意味と実店舗が担う役割

D2Cビジネスの本質は、ブランドの熱狂的なファンを増やしていくことにあります。しかし、オンライン体験だけで顧客に熱狂的なファンになってもらうことは難しいのが現状です。フィジカルな空間でブランドの世界観を体験したり、商品にじかに触れたり、スタッフと対面でコミュニケーションを取ったりする中で、ブランドへの理解や愛着を深めてもらうことが大切です。そのような体験を提供する場として、実店舗が必要になるわけです。

一般的に実店舗の機能は「売る」ことですが、D2Cビジネスにおける実店舗の主な目的は、商品を販売することではありません。アトリエやオフィスにちょっとした販売スペースがあって、そこにお客さまが訪ねてきて、スタッフとコミュニケーションを深める──。それがD2Cにおける実店舗のイメージです。「販売店舗」ではなく「お客さまとリアルに接する場」をイメージしていただければと思います。

ビジネス的な観点では、一般的にオンラインのみでの顧客獲得コストが年々上がっている一方で、LTV(顧客生涯価値)は下がる傾向にあると言われています。つまり、ECだけによるエンゲージメントが低下しているということです。そのような課題を解決する方法として、実店舗展開を組み込んだD2Cビジネスのモデルは非常に有効です。同時にブランドの認知度向上、オンラインではリーチが難しい潜在顧客へのアプローチ、新商品のテストマーケティングなど実店舗でしかできないことはいろいろあります。

実店舗でしかできないこと

これまでのD2Cビジネスを見ると、初めの段階では実店舗展開を想定していない場合もあります。ECからスタートして、顧客との関係をより深めていくことが必要になった段階で実店舗を構えるケースも多いです。商材で分けると、アパレル、家電、家具といったいわゆる高関与商材は、じかに触れてみないと価値がわからないものが多いので、実店舗に向いていると言えます。一方、低価格商品、あるいは低関与商材は、ECだけでビジネスが成立する場合もありますが、熱狂的なファンをつくるという点では、やはりどこかの段階でフィジカルな体験が必要になります。そう考えれば、あらゆるカテゴリの商材において、実店舗展開を組み込んだD2Cビジネスの可能性は大いにあります。

D2Cの実店舗をパターンに分類

大きく分けると、ブランドの世界観を体験してもらうことを重視する店舗と、ユーザー間、あるいはユーザーとスタッフによるコミュニティづくりを重視する店舗があります。ブランドが何を目指すかによって、店舗のつくり方も変わってきます。

実店舗を作ればいいということではなく、重要なのは、ブランドの全体体験設計の中で実店舗でしかできないことは何かをしっかり見極めること。逆に言えば、オンラインでもできる決済などはオンラインでやった方が待ち時間がなく利便性が高くなり生活者にとってより良い体験になります。実店舗を展開しようとすれば、場所、人、モノ、お金などの複雑で手間のかかる運用が必ず発生します。さらに昨今ではデータを活用したOMOと呼ばれるオンライン体験とのシームレスな接続が不可欠です。

ブランドの理想を常に念頭に置きながら、一方では現実的な運用を本当に担い切れるのかどうかをしっかり考える必要があります。つまり構想だけではないリアルで泥臭い店舗ビジネス感覚が必要ということです。

実店舗において特に重要なのが「人」です。

成功しているD2Cブランドは、スタッフのコミュニケーションそのものがブランドの一部となっています。お客さまとの的確なコミュニケーションによって、エモーショナルなつながりをつくる。その中でブランドの世界観やパーパスを自然に伝えていく──。それが店舗における「人」の役割です。

 

従来のビジネスからD2Cビジネスに転換していく際に必要なことは

縦割りの構造をいかに乗り越えていくかということです。企業がD2Cビジネスにチャレンジする難しさは、新規事業を立ち上げる難しさに似ています。実店舗を展開するか否かに関わらず、スモールスタートであっても、さまざまな機能を統合し、スピード感をもって物事を進めていかなければなりません。そのためには、異なる部署のメンバーが参加し、かつクイックに意思決定できる体制をつくる必要があります。有効な方法の一つは、プロジェクトチームを立ち上げることです。D2Cビジネスを展開していくためにどのような機能が必要で、どのようなセクションの人を巻き込んでいく必要があるのかを見極めて、部門横断型のチームをつくることが理想です。

コロナ禍によってECが活性化した一方で、実店舗経営は厳しい状況が続いています。でも、このコロナ禍が去った後、リアルな行動や人とのつながりを制限されていたことに対する反動で、実店舗の価値がこれまで以上に見直されるのではないかと考えています。フィジカルな接点づくりがブランド構築において重視される。そんな世の中になることを見込んで、実店舗展開を組み込んだD2Cビジネスを今からスタートさせておくことが非常に重要です。