デジタルに関わる組織とリアルに関わる組織は、異なる考え方に基づき、別のKPI・組織で運用されてきました。しかし、新型コロナウィルス感染症(Covid-19)の世界的流行がもたらす半強制的なデジタルへの移行開始により、デジタルとリアルの組織や考え方は急速に融合に向かってきております。その中で、D2Cへの拡大が挙げられます。今回はD2Cを進めていく中で、どんな人材が求められていくのかについて、考察していきます。
D2Cを支えるコマース基盤とは
D2Cの利点は、デジタルを活用することで生まれるあらゆるメリットを享受しえる、ということにある。顧客は場所や時間に縛られることなく、ブランドから提供される情報をしっかり吟味することができるのだ。そのD2Cを支えるのが、ECなどのコマース基盤だ。小売を介することなく、メーカーが直接顧客と対応することから、集客から接客、販売から事後の対応までを、デジタルを通じて担うことになる。では、D2Cに必要なコマース基盤の要件とは何だろうか。
コマース基盤の要素
1)顧客データを集約できるデータモデルを備えていること
D2Cの大きなメリットは、顧客のデータを集めやすいことだ。そこでコマース基盤には、あらゆる接触時点で発生しうる顧客データを集約するため、汎用性のあるデータモデルを備えていることが求められる。もしD2Cに参入しつつ自社店舗や既存流通チャネルも併存するなら、これにオフラインデータも加わる。データを一元的に扱うことで、一人ひとりの顧客を理解し、適切なコミュニケーションを図り、熱心なファン層の育成を目指すことができるのだ。
また、D2Cはブランドの世界観に共感した顧客との「共創」が重要となる。コミュニケーションを重ねるなかで、顧客が真に必要としている製品の要件を理解し、それを製品開発に反映していくことが欠かせない。そのとき、集めたデータを顧客ニーズの把握に活用しやすいかどうかが重要となる。
2)ブランドロイヤルティの強化を支援できること
D2Cの目的は、「商品を羅列して、購入してもらう」ことだけではない。顧客とのあらゆるやり取りを通じて、望ましい体験を生み出す場にすべきだ。そのためには、ブランドの姿勢などを通じて世界観を伝え、顧客にとっての利便性を高め、親近感を生み出すような豊かなデジタル表現が求められる。
たとえば、それぞれの顧客が関心を寄せている商品詳細や、状況に合わせたキャンペーンの提示など。商品の利用シーンや質感などを的確に伝える、動画や3Dイメージのようなリッチなコンテンツも、顧客の体験を向上させる。
3)パーソナライズできること
D2Cでは、顧客との長期的かつ深いつながりを形成していくことを目指す。「企業」と「顧客」の間にあった溝をデジタルでつなぐことで、顧客に「私はブランドの仲間である」「ブランドは、いつも私のために提案してくれている」と感じさせるような、パーソナルなコミュニケーションを構築する必要があるのだ。
コマース基盤は、顧客の購買履歴やコミュニケーション履歴はもちろん、外部データとの連携も図り、それらにもとづいて顧客一人ひとりを最適なコンテンツへと誘導することが求められる。そのためコマース基盤には、外部データ接続能力と、そうして集まった膨大なデータを賢く操るためのAI技術の活用が欠かせない。
今後どんな人材が求められるのか
野村総合研究所(NRI)はITナビゲーターにて「BtoC EC(消費者向けEC)」の市場規模は2025年度に27兆8000億円に拡大すると予測しています。2019年度から比較すると約1.4倍の成長が続く見通しです。ECの増大や、決済手段としての電子マネーの普及により、企業と顧客との接点がどんどん「デジタル化」されています。リアル店舗という顧客接点を有することを強みとして小売企業もデジタル化を進めておりますが、ITプラットフォーマーが顧客との接点と情報を握り、小売領域に進出する動きも出始めています。この流れに小売企業が対応していくためには、まず自社の有するデータを整備・統合して基盤を構築することが求められます。その上で、自社の強みを磨きつつプラットフォーマーと連携する、さらには自社の強みを小売企業独自のプラットフォームビジネスへと変換するなど、大きな変革が求められます。
こうした取り組みを成功させるためには、これまでの営業部門、EC部門、商品部門などの機能別組織に横串を通す機能を設置し、次世代を担う人材をリーダーとして起用することなども求められます。こうした変革への労を惜しまず行える企業こそ、小売業界での勝ち組になっていくのではないでしょうか。