これまで卸や小売店などに販路を頼ってきたメーカーにとっては、D2Cに関するノウハウがなく、販売戦略の立案やECサイト構築、社内の体制づくりなどどこから手をつけていいかわからないという悩みもあるのが現状です。 D2Cを始めるうえでは、具体的にどのように取り組んでいけばいいのでしょうか。今回は、よりコスト削減やブランド強化につながる自社ECを立ち上げるケースを中心に、D2Cにまつわる課題とその解決方法について、ポイントをまとめてご紹介します。
D2C参入の壁①「消費者とのコミュニケーション」の突破方法
これまで卸や小売店経由のみで製品を販売していた場合 、D2Cへの参入で大きく変化するのは、消費者と積極的に直接コミュニケーションをとる必要がでてくるという点ではないでしょうか。集客力のある小売店ではなく、インターネット上に混在する競合のなかから自社チャネルで販売している商品を選んでもらうためには、消費者と積極的にコミュ ニケーションをとり、製品やサービスのファンを増やしていくことが重要です。
具体的なコミュニケーションの方法としては、多くのスタートアップ企業が取り組んでいるように、ソーシャルメディアやデジタルマーケティングを通じて、エンゲージメントを高めるのが基本となるでしょう。実際に店舗を持たないD2Cではオンラインによるやりとりが主となるため、LINEやTwitter、 InstagramなどのSNSはもちろん、ブログ、Web広告などさまざまなチャネルを通して 、コミュニケーションを活発化させていく必要があります。また 、一方的に情報を発信するだけでなく、チャットやQ&Aなどを活用した双方向のコミュニケーションも重要なポイントのひとつです。これらのやりとりは一方向のコミュニケーションに比べてエンゲージメントを高めやすく、 ファン獲得とLTVの向上につながります。消費者に対してこうした顧客体験を積み重ねることが、ブランドを育てることにもつながるのです。
D2C参入の壁②「社内の体制づくり」の突破方法
D2Cを始めるにあたって、社内でどのような体制を整えればよいのか迷っている方も多いのではないでしょうか。自社製品を直接消費者へ販売するD2Cは、卸や小売店への販売とは方法が大きく異なるため、社内の業務体制もそれにあわせて構築する必要があります 。具体的には以下のようなセクションが必要となります。
- Webサイト構築・更新管理
自社でECサイトを立ち上げて集客する場合 、Webサイトを構築・運用するためのチームが必要となります。最近は専門的な知識がなくてもECサイトを立ち上げることができるサービスも充実していますが、集客力の高いサイトを制作するためにはWebデザイナーだけでなく、カメラマンやライター、また導線設計を行うWebプランナーや制作チーム全体を統括するディレクターなどの存在が必要になります。
- プロモーション(マーケティング)
D2Cにおけるプロモーション活動は、Web広告やWebマーケティングが中心となります。そのため、データを分析しマーケティングに活用することのできるデータサイエンティストやWebマーケターの存在が欠かせません。
- 在庫管理、発送管理
在庫管理や発送管理といったバックオフィス業務について、作業内容自体は卸や小売店経由の販売と重なる部分もありますが、消費者一人ひとりに対応する必要があるため管理件数が多くなることに注意が必要です。それにあわせて受注管理、発送業務、顧客対応、アフターサービスなどあらゆる業務が煩雑になるため、対応できるリソースの確保と体制構築が必要となります。
D2C参入の壁③「マーケティング計画」の突破方法
D2Cを始めたいと思っても、売上の見通しを立てることができずに社内の承認が得られないというケースは意外と多いのではないでしょうか 。営業計画やマーケティング計画 をたてるうえで重要なのは 、まず競合商品の売上やキーワード検索などで収益の予測値を立てること。さらにKPIの設定やPDCAサイクルで計画を継続的に改善することで、確実に目標達成に向かうことができます。
- キーワード検索で収益を予測する
売上予測を立てる方法はいくつかありますが、D2Cに初めて取り組む場合のようにこれまでの実績がない場合は、検索ツールを利用して市場規模を測る方法もあります。Googleのキーワードプランナーを使えば、検索ワードごとの検索数 や月ごとの推移を把握することができ、これを利用することで、自社サイトへの流入数や売上をある程度予測することができます。
- KPIの設定
KPIとは「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」の略で、事業の目標を達 成するまでのプロセスを具体化、定量化したものを指します 。例えば「売上を上げる」はどの企業にとっても達成したい最大の目標ですが、それだけでは漠然としていて、よほど商材や運に恵まれない限り目標達成することはできません。そのため最大の目標を達成するために必要な「小さな目標」を設定し、 一つひとつ達成していくことで、着実に目標に向かうことができるのです。
- P D C A サ イク ル に よ る サ イ ト 検 証
PDCAとは「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」の頭文字をとったもので、目標達成までのプロセスを継続的に改善するための手法を指します。KPIとして設定した「小さな目標」を毎回達成できればいいのですが、必ずしもうまくいくケースばかりとは限りません。その場合に、プロセスがどこまで達成できたかを「評価」し、うまくいかなかった原因があれば「改善」することが重要です。さらに、これらの反省を元に再度プロセスを「計画」し「実行」に移すことで少しずつプロセスを改善することができます。「売上を上げる」という大きな目標を達成するためには、このPDCAサイクルを回しながら、KPIを一つひとつ確実に達成していくことが重要です。
D2C参入の壁④「ECサイト構築」の突破方法
D2Cにおいて店舗の役割を果たし、消費者の窓口となるのがECサイトです。それでは、何に気を付けてECサイトを構築すればよいのでしょうか? 売上を上げられるサイトにするには、以下の3つのポイントを満たす必要があります。
- ポイント1. ブランドイメージを創出する
数多くの競合のなかから消費者に選んでもらうためには、自社製品の魅力を効果的に伝え ることが重要です。ものづくりに対するこだわりやブランド設立の背景、生産の様子など 、商品の背景がわかるようなメッセージを配信し、ブランドイメージの創出に努めていきましょう。
- ポイント2. UIはシンプルに、機能性を重視する
直接商品を手にとって見ることのできないD2Cでは、写真やスペック情報、使用イメージなどを交えて商品情報をわかりやすく伝える工夫が必要です。ブランドイメージ演出との兼ね合いにもなりますが、基本的にはシンプルでわかりやすいサイトデザインを心がけましょう。
- ポイント3. SNSやオウンドメディアとの連携を意識する
D2Cサイトは消費者とコミュニケーションをとるチャネルとしての役割もあります。 そのため、ECだけでなくブログなどのコンテンツ発信やSNSとの連携を意識し、消費者とのコミュニケーションを活発化させる仕掛けをもたせておきましょう。ひいてはそれがファンを構築することにつながります。
終わりに
SNSやブログによる情報発信が一般的なものになり、企業は従来のように卸や小売店を通すことなく、消費者と直接コミュニケーションをとることができるようになりました。 また、新型コロナウイルスの影響で店舗ビジネスが大きく売上を落としているという事情もあり、 D2Cは今後さらに伸びていくことが予想されます。
繰り返しになりますが、D2Cビジネスを成功させるためには、それに対応したノウハウや社内体制の構築が求められます。従来の体制のまま、ただ販売チャネルをECモールや自社ECに変えただけでは、売上を上げるどころか、サイトへの集客もおぼつかない事態になりかねません。こうしたリスクを避けるためには、必要に応じて専門家のサポートも得 ながら、一つひとつ着実に販売体制を築いていくことが重要です。
D2Cは従来の卸や小売店に頼らない新しい販路開拓という意味もありますが、それ以上にソーシャルメディアやデジタルマーケティングを活用した、より効果的な販売方法を模索する試みでもあります。さらなるビジネスの成功を目指し、ぜひ、D2C展開を検討してみてはいかがでしょうか 。