BOPISとは、「Buy Online Pick-up In Store」の略称で、「ECで購入した商品をリアル店舗で受け取る購入方法」を意味しています。
日本の小売業界でも、ヨドバシカメラ、無印良品、東急ハンズなど、店頭受け取りサービスを扱っているところはありますが、米国では店舗のレイアウトが変わるほど全面的に打ち出しており、特にその購入方法が急速に多様化してきています。
米国では人家がまばらな地方が多く、配送コストが割高で配送料も高いため、BOPISが普及しやすい環境にありました。
米国で2017年に11.6%だったEC化率が2018年には14.3%にまで高まったのは、BOPISが急速に普及した影響だといえます。
その中でも、今回はそのBOPISをいち早く取り入れた事例として米国発祥の世界最大スーパーマーケットチェーンWalmartの取り組みをご紹介します。
Walmart(ウォルマート)のBOPISの戦略
2015年、Walmartは売上の成長を促進するため新しいオムニチャネル戦略を発表しました。
これは米国中にリアル店舗をもっているWalmartがオンライン事業を強化することで、世界中の小売業界を変えつつある、オンライン取引の代表格Amazonからのシェアを獲得するといった狙いがあります。
Walmartはそのオムニチャネル戦略の一環として、BOPISに目をつけました。
まずWalmartは、米国の小売業界の中で先行して、店舗の駐車場で注文した食料品を受け取れるカーブサイド・ピックアップを取り入れました。
これは、「店舗が広く、列が長く、駐車場が混んでいるので買い物には行きたくない。でも、商品の価格は魅力的」と思っている顧客に向けて生み出したサービスだといいます。
顧客がオンラインで何100万ものアイテムから選び、支払いの際に「ピックアップ」オプションを付けるだけで、Walmartの従業員が店内を歩き回ってかごに入れてくれ、さらには駐車場まで持ってきてくれるので、車から降りることなくスムーズに買い物をすることができます。
これまでのところ、カーブサイド・ピックアップの利用者は25~44歳の比較的若い年齢層となっており、Walmartが新たに顧客として取り込みたい次世代の顧客年齢層と一致しています。
Walmartのこの取り組みは、小売業界の将来を変えたといっても過言ではないでしょう。
Walmart(ウォルマート)のBOPISの事例
Walmartではカーブサイド・ピックアップだけでなく、店舗の入り口のレジの側にBOPIS専用の受け取りカウンターも設置されています。
ただ、BOPISのニーズが高まると同時にカウンターで行列ができてしまい、せっかくオンラインで購入した商品を並んで待たなくてはいけないという問題も起こっていました。
そこでWalmartは小型から中型までの最大300個の荷物が収容できる、高さ約5メートル、幅約2.5メートルでそびえ立つピックアップ・タワーという巨大自動受け取り機を新たに導入しました。
ピックアップ・タワーでは、取り出し口近くにスマホのQRコードをかざすと、数十秒で商品が運ばれて来るため、待ち時間無く商品を受け取ることができるのです。
また、より大型の荷物も受け取れるように、ピックアップタワーに隣接するピックアップロッカーも導入されるようになりました。
さらに、このような店舗受け取りだけでなく、従業員が自身の業務終了後の帰宅ついでに注文商品の配送をおこなう配達システムも導入しました。
これはWalmartが米国のあらゆる地域に店舗があるという特性を活かし、店舗を配送拠点として配達の効率化を図るというものです。
既存のリソースを活用するたけでなく、追加の報酬を支払うことで従業員のモチベーションの向上にも繋げるという画期的な取り組みとなっています。
日本の小売業におけるBOPISの将来性
Walmartは上記のサービスに留まらず、店内の床清掃や在庫確認、商品の搬入においてロボット技術を導入する等、小売業界でリアル店舗とオンラインのチャンネルを融合させる先駆者となっており、常に将来を見据えた取り組みを行っています。
米国におけるBOPISの普及した背景に、自宅に商品を配送してもらって配送料を支払うよりも店舗に受け取りに行った方が安価だという合理性や、またオンライン事業の強化において対Amazonが意識下にあった環境がありました。
今後日本においても、BOPISをはじめとしたオムニチャネル事業は確実に普及していくと思われますが、現状ではなかなか米国のように積極的に取り入れている企業が少ないようです。
ネックとして、BOPISに欠かせない在庫データとPOSとの連動システムや、ECサイトの強化における根本的なITリテラシーの低さ、そしてその必要性を感じない環境が想起されます。
今後日本の小売業界で生き延びていくためには、これまで行ってきたオンライン施策を今一度振り返り、次世代の顧客ニーズに合わせて進化していくことが必要とされています。